2019-12-13 Fri
前日から出掛けようと心に決めて、起きた朝が寒かった。外へ出るタイミングを逃したまま正午を回ってしまうともう、出掛ける気分は萎えてしまう。
そんな日には、真逆の追想だ。
いつかの夏。
暑さは空から降ってきて、ニュータウンの整然とした区画街路を隈なく敷き詰めていった。
学期が変わって唯一出来た友達は、家族と長い旅行に行ってしまった。
人気のない公園を横目に見る。
姿が見えない蝉の合唱だけが、この世界の存在証明。
フェンスに触れながら、登校するときの2分の1のスピードで歩く。
何だか手が白く汚れてしまった。
小学校の正門は、固く閉ざされている。
裏口へ回ると、門が開いている。
車が2台、砂利の上に駐車してある。
誰か先生が来ているのかな。
あたりを見回して、そっと門の中へ抜ける。
ふ。
校舎の壁からなるべく離れないように、時計回りに校庭のほうへ回る。
ベランダのコンクリートの段差が何だかふしぎだな。
終業式のあと、持ち帰るのを忘れた誰かの植木鉢が一つ。
少し後ろめたい気持ちで、ガラス窓を覗く。
誰も居ない教室。
校庭へ出るための昇降口は、日が当たらなくて涼しい。
静かに、風が吹く。
ああ。
あと半月と5日後には、みんな本当に帰ってくるのだろうか。
僕は何だか遺跡の中にいるみたいだ。
むかしここにみんながいた。
みんなといた。
少年の日の夏。
