2017-08-20 Sun
なんでもっと早く出会わなかったんだろう。そんな乙女心から二日目はスタートした。
「なんでもっと早く出会わなかったんだろう」とは、お互いを運命の相手と見定めた男女が現在よりいささか前に出会っていれば、この幸せも倍増ッピーになっていたのいたのにぃ。
という時間軸を超越せんとする倒錯的な思考に沈殿した際に発する言葉である。
そういった意味では、愚生も同様だ。
ただし出会ったものが違う、女ではない。
何に出会ったのか。
おこわである。
愚生は元来おこわという食べ物には一目置いていた。
人に会い、好きなミュージシャンは誰かと問われば「ビートルズはまず好きだよね」と答え、
次の町で人に会い、好きな日本の山はいずこかと問われれば「富士山はまず好きだよね」と答え、
その次の町で人に会い、好きな食べ物は何かと問われれば「おこわはまず好きだよね」と答えるのが常であった。
そんなおこわ好きが出会ってしまったおこわは、いまだかつてなく美味であった。
ゲストハウスで台湾初日の朝を迎え、
「わしはお腹がすいた。われはすいたか。」「わしもすいた。ほなたべいこか。」という朝の徒然なるオシャンティーな会話を楽しんだあと、着のままに町へ出た。
ふらふらと食料を求めてさまよっていると、屋台が何軒か集まっているやや活気のある地帯を発見した。
地元民だらけの地帯をやや警戒しながら歩いていると、屋台の店主の中でもやや若い男が売っているものに目が留まった。
「ややや!こいつはもしかしておこわではあるまいか!」
とやや興奮状態となり震える手で台湾ドルを男に差出し、需要と供給からなる一連の経済活動に加担するに至った。
手に入れたとなれば、逸る気持ちを抑えることはできない。
早速屋台の前でビニール袋に入れられたそれを割りばしでほじくり出し、食らいついた。
もっちりとした触感、香ばしいもち米の香りが口の中に広がり、台北の路上にて天国への階段に片足をかけた。
これは、毎日食べてもいいね。絶対飽きないよね。あなたはどう思う?おこわのことどれくらい好き?と道行く人々に同調を求めたくなる衝動を抑えつつ、ゲストハウスに引き返した。

「伝説のおこわをよそるやや若い男 その足さばきは酔拳のようだ」
さて、本日の行き先は台北から東へバスで1時間30分くらいのところにある九分(きゅうふん)という町である。
台湾の観光といえばココ!というくらいに有名な場所で、実際にバスから降りると、大勢の観光客でにぎわっていた。
石畳の道沿いには所狭しと豆花を売る店や雑貨屋、謎の卵を店先で煮込む店などなどが立ち並び、色あせた地面と対照的な色彩が軒先に溢れている。
海を見下ろせるテラスがある喫茶店に入り、コーヒーを飲んだ。
一日で東京からこんないい所に来れるとは、素晴らしい。いや人生っていいねっ!この手すりとか至って台湾ぽいし!!
と台湾の手すりについて何ら知識はないけれど、遮二無二色々なことを絶賛したくなる気分になってしまうのが九分の魅力である。

「喫茶店からのながめ」
九分を後にして、お昼過ぎに台北市内へ戻ってきた。
日本を出てからゆっくりした食事をしていなかったなので、落ち着いた所で食事しませう、ということになり、かねてから目星をつけていた「元禾食堂 Flourish」というお店へ入った。
内観は白を基調として清潔感があり、開放的な窓から通りもよく見えて、外国人でも気軽に入りやすい雰囲気である。
メニューはヴィーガンに対応しており、まず主菜を選びセットにすると玄米とみそ汁がついてくる。
なんと台湾でみそ汁に出会うとは!
遠い異国の地で唐突的かつ衝撃的な再会。冷静と情熱と味噌のあいだをしばし彷徨っていた。
ここの料理は日本人の舌によくあうのではないかなと思う。

「麻婆豆腐と野菜モリモリセット」
お腹も満たされ、かなり気力も充実してきた。
したらば楽器を演奏しながら歌を歌いに行きまっしょい、ということでサンセットスポットとして名高い淡水(たんすい)に向かった。
台北中央駅から地下鉄MRTで北に向かって約40分で到着。
改札を出ると、芝生が広がる海に面した公園が見える。
公園と街の間の遊歩道沿いにはお店が並んでおり、がやがやと観光客や地元民が行き交っている。
その中で絵を描いて売るおじさん、キーボードを弾いて歌っている女性など何人かの芸人たちが活動している。
豆一行は遊歩道が少し開けたところに陣取り、演奏をした。
海からの風が涼しく気持ちよく歌っていると、あたりが夕焼け色に染まっていく。
なんだかあっという間に遠くに来たな、という気持ちが湧いてきた。
一通り歌った後、駅の近くで40才前後の男性がCDを購入してくれた。
どうもありがとうございました。

「うたう」
知らない街に来ると、一生に一度しか会わないであろう人に出会う。
自分と相手の一生の中で本当に一瞬間のことだけれど、その人の人生に幸あれと願いたくなる。
そんな旅が好きだなと思っている。
疲れた体と感謝の気持ちをMRTに預けて帰途に着いた。

「のむ」
つづく。